石徹白洋品店のビジョンとは(3)
2019.7.12
ビジョンを描くことの大切さを感じ、
それを実行するにあたっての経緯を
書きました。
そして、
そのビジョンとは。
目指すことの大きな柱は3つです。
その一つは、
「たつけを普及する」です。
書きましたので、ご一読ください。
今回お話するのは、柱の2つ目です。
それは、「土から始まる布作り」を実践する場作りです。
石徹白に限らず、数十年前(100年も前ではないです)までは、
お蚕さんを育てたり、麻を栽培するところから
服に仕立てるまで、当たり前のように、
日常の中で行われてきました。
それはそれは大変な作業で、
世界的な流れとしても
産業革命が起こったのは、
繊維産業の変革を目指したのが発端です。
それくらい、手間と時間とコストがかかる、
特に女性の労働として、膨大で苦労が多かった。
今や、私たちは、繊維産業の労働から逃れ、
いつでも、お金さえ払えば、
好きな色の好きなデザインの服を
買うことができるようになりました。
それは本当にありがたい変化だったと思います。
しかし、その進み具合があまりにも急過ぎて、
かつ、インパクトが大きすぎて、
私たちは、すでに、自分の服を作るということが
できなくなりつつあります。
ましてや、糸から考えるなんて、
いや、糸が土から生み出されるなんて
想像すらできなくなっている状況と思います。
それは悪いことではない。
先人はその時の暮らしを
よりよくしようと、努力して、工夫して生きてきたわけで、
その積み重ねの上で、私たちは生かされていると思うのです。
だから、土から麻を育てて、
それを糸にして、機織りして、
仕立てて、藍染しなければ
服が手に入らないなんて、
今の時代において、ナンセンスだし、
そんなことになったら
先人らに申し訳ないくらいだと思ってもいい、
と私は思っています。
という、現代において、
なぜ土から、布を生み出すのか。
それは、もう、わからなくなりつつある
物事の(服の)ルーツを知ること、学ぶことが、
そのあとの、私たちの行動に、
ひいて言えば、私たちの行動によって築かれる未来に
大きな影響を及ぼすと思うからです。
何も知らず、値段とデザインだけで選んだ服は
いくらでも使って、いくらでも捨てることができる。
けれども、それが作られるプロセスで傷つく人、
土、水が、確実にあって、それは伏せられていて私たちには見えない。
それが今も続いていて、
無知から、私たちの明るいはずの未来が
暗いものになっているかもしれない。
土壌や水質の汚染、
そして発展途上国の不当な労働・・・
わからない、本当のところは知らない、見たことがない、
けれども想像できるほど、服が安い、安すぎる。
そして、異様にたくさんありすぎる・・・
服を作って販売する者として
最低限、知っておきたいことなのです。
土から布が生み出されるプロセスを。
それを知らずして、ものを作り続けることは
私にとっては苦痛なのです。
必ずしも、全て、この石徹白で作り上げられるとは
思っていません。
何十年前までは、そうだったかもしれないけれど、
残念ながら、生活様式も人の心も変化しすぎて、
そのような時間の割き方に、
もはや慣れることができなように思うのです。
けれども・・・
服の背景を学ぶために、
桑を栽培し、お蚕さんを育て、糸をとって、それを布にする。
藍を栽培し、すくもをつくり、藍で布を染める・・・
こうして作るものは、ただの布ではなく、
誰かに心から気に入ってもらえるものを
きちんとデザインして、責任を持って作る。
ものを作る責任を感じながら作る。
ものを生み出すことは、重たいことと思っています。
ものがあふれる今の世の中だからこそ。
一方で、それはとてつもなく楽しくて、
ワクワクして、刺激の多い、クリエイティブで素敵な仕事でもあります。
これが仕事として成り立つために
できる限りの努力をすることは当然です。
価格の設定、販売の方法、そして多くの人に知ってもらえるような
広報の方法・・・
けれど、それより以前に、
まずは、私たちの祖先が、
続けてきた、服を作る、布を土から作るという営みを
途絶えさせてはならず、
せめて、それが見える環境を
一つの「業」として成り立たせておきたいと思うのです。
さらに、それによって、得られるもの。
それは、きっと「圧倒的な幸せ感」と思っています。
カンボジアで伝統的な絹織物を復活させている
クメール伝統織物研究所では、
畑を肥やすために、家畜を飼い、その馬糞で
肥料を作って、そして、畑で綿花や藍を育てています。
桑の木を育て、養蚕をして、糸を紡いで、
機織りをしている横に、牛が歩き回り、
人々の食料となる卵を産む鶏がココココーと
自由に振舞っています。
機織りや糸紡ぎの作業をしながら
子供達がハンモックに揺られてお昼寝をしている。
少し大きな子供達は、走り回って遊んでいる。
この土地で、この土地の人とともに
土から生み出されるものによって
布を作り上げるこの現場は、
幸せに満ち溢れていました。
インターネットが発達し、なんでも手に入る今ですが、
身近な人と力を合わせて何かを作ること、
近くの植物によって、暮らしに役立つものを生み出すことができること、
そして、自国の特徴的な絹織物を復興させているという
仕事に対する誇り・・・
これらが、ここに暮らして仕事をする人全体の
幸せな空気に大きく影響しているように思うのです。
私が、森本さんに「ここで感じる圧倒的幸せ感は
何によってできているのだろうかと、その答えがわからなくて・・・」
と話したときに、森本さんはこう言いました。
「遠くを見るのではなくて、
近くの人と、近くのもので、ものを作るといいよ。
そしたら、すごく幸せを感じるよ。」
そんなシンプルな答えが帰ってきました。
目は外へ向きがちです。
外の方が、街の方が、いいように見えたりする時もある。
でも、そうではなくて、ここでともに住む人と、
ここでしか作れないものを生み出すことができた時が
実はとてつもなく幸せで満たされる瞬間だったりするのです。
できるだけ外から余計な価値観とか、余計なものを
買うことなくて、ここの足元にあるものを
活かしていくこと、
こうしたものづくり、そうしたものづくりができる環境を
ここで作っていくこと、
私はそれを大きな柱の一つとして、考えています。
結果論だけど、それが幸せに感じる。
幸せになるために、私たちはものを作る。
ものを作るから、私たちは幸せになれる。
そんな循環を目指していきたいと思います。
幸いにして、この石徹白には、すでに
長い時間をかけて、ここに住んできた人々が培ってきた
地域コミュニティがあり、自然環境があり、
そして、歴史があります。
私たちは、その上で、今のことをやらせていただいているわけで、
全く0から生み出すのではないことが、
ありがたいことだと思っています。
古くからの家々があり、
神社やお寺といった信仰の場と
信仰の心を持つ人々が住み、
荒野ではなく作物が生まれる田畑がある。
この環境に感謝しながら、
ここだからできること、
やらせてもらえることを、
私は丁寧に進めていきたいと思います。
次のブログで、最後の柱の一つをお伝えします。
長々と読んでくださり、
ありがとうございます。
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石徹白洋品店
〒501-5231 岐阜県郡上市白鳥町石徹白65-18
TEL:0575-86-3360
© Itoshiro Yohinten.